敷金・退去原状回復 壁紙(クロス)、天井 ②

壁紙(クロス)、天井の借主が負担する原状回復

退去の原状回復でもっともトラブルが多いのが壁と壁紙(クロス)です。

費用負担の範囲

原状回復は借主の責任によって生じた減耗・キズ等の破損部分をもとの状態に戻すことであるから費用負担についても、破損部分の補修工事に必要な施工の最小単位に限定されます。

なので壁紙(クロス)の一部を借主が不注意で破いたりした場合、借主の負担は破損部分の補修に必要な㎡単位が原則となります。

経過年数の考慮

壁紙(クロス)の一部を借主が不注意で破いたりした場合、破損した部分の張替え費用は借主の負担にります。

しかし破損部分もやはり通常減耗・経年変化をしており、当該部分は貸主が負担すべきなので、借主は補修費用から通常減耗・経年変化の分を差し引いた額を負担すればよいことになります。

破損部分と補修個所の差が大きい場合

壁紙(クロス)の一部を破損した場合にの借主の負担は㎡単位が原則ですが、破損部分だけを新しく張り替えることで、他の古い部分と色が異なってしまうような場合には借主は原状回復義務を十分に果たしていないともいえます。

その場合はクロス一面分の張替え費用を借主の負担とすることもありますが、この場合にも経過年数を考慮して貸主が負担すべき通常減耗・経年変化の分を差し引いた額を負担すればよいことになります。

なお、貸主が色合わせのために部屋全体の張替えを行う場合には、破損していない残りの面の張替え費用は貸主が負担することになります。

壁紙(クロス)の補修費用の相場

状態 補修内容 補修費用の相場
壁紙にキズや小さな穴 壁紙の張替え 800円~1,500円/1㎡

1万円~3万円/1個所

2個所目から3千円~1万円加算

壁に大きく穴が空いている 壁紙の張替え+下地ボードの補修 3万円~5万円/1個所

壁紙(クロス)、天井のよくある質問

Q:壁紙(クロス)を不注意で破った場合、借主は新品と同じ金額を負担しなければならないのですか?

A:借主が不注意でクロスを破らなかった場合、貸主は中古のクロスの返還を受けていたにすぎないので借主の不注意でクロスを損傷した場合に新品の返還を受けるのは不公平です。
従ってこの場合にも経過年数を考慮して貸主と借主の負担を決めるべきだと思います。

(例)クロスの耐用年数6年
3年間使用して返還する場合

貸主50と借主50の負担割合になります

Q:クロスに落書きしてしまい、敷金から控除されました。明細をみると下地調整、残材処理、諸経費とありましたが払うべきでしたか?

A:下地調整用、残材処理の項目はこれを賃借人に負担させる根拠がなく認められないとした判例があります。
東京地裁 平成4年(ワ)12453号

諸経費は、その内容が不明であるから、この部分の請求は失当であるとした判例があります。
仙台簡裁平成6年(ハ)2673号

タバコのヤニの臭いと汚れが壁紙(クロス)に付着しているから壁紙(クロス)を交換すると言われましたが払う義務はありますか?喫煙するときは窓を開けて換気をよくしていました。

契約書の特約で喫煙を禁止されていない限り、喫煙することは用法違反には該当しません。

換気をしないで一日何十本もタバコを吸っていて明らかに通常の使用を超える場合にはクリーニング代や交換費用を負担しなければいけない場合もあるとは思いますが、窓を開けて換気に気をつけながら喫煙した場合は通常の使用の範囲内と考えられるので支払う義務はありません。

しかし通常のクリーニングでは除去できない程度のヤニがある場合には通常減耗とはいえず、借主が負担する場合もあります。

この場合クロスの耐用年数は6年なので経過年数を考慮して貸主が負担すべき通常減耗・経年変化の分を差し引いた額を借主が負担すればよいことになります。

賃貸人・賃借人の修繕分担表
壁紙(クロス)、天井

賃貸人の負担になるもの 賃借人の負担になるもの
1.テレビ・冷蔵庫等の後部壁面の黒ずみ(いわゆる電気やけ)

(理由)
テレビ、冷蔵庫は生活の必需品であるので、その使用による電気焼けは通常の使用と考えるのが妥当と考えられる。

1.賃借人が日常の清掃を怠ったための台所の油汚れ(使用後の手入れが悪く、ススや油が付着している場合)

(理由)
使用後の手入れが悪く、ススや油が付着している場合は通常の使用による減耗を超えるものと判断されることが多いと考えられる。

2.壁に貼ったポスターや絵画のあと

(理由)
壁にポスターや絵画を貼ることによって生じる変色は、主に日照などの自然現象によるものなので、通常の生活による減耗の範囲であると考えられる。

2.賃借人が結露を放置したことで拡大したカビやシミ(賃貸人に通知もせず、かつ拭き取る手入れを怠り、壁紙を腐食させた場合)

(理由)
結露は建物の構造上の問題であることが多いが、借主が結露が発生しているのに貸主に通知をせず、かつ拭き取りなどの手入れを怠り壁等を腐食させた場合には通常の使用による減耗を超えたと判断されることが多いと考えられる。

3.壁等の画びょう、ピン等の穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの)

(理由)
壁にポスターやカレンダーを掲示することは通常の生活において行われるものであり、そのために使用した画びょう、ピン等の穴は通常の減耗であると考えられる。

3.壁等の画びょう、ピン等の穴(重量物を掛けるためにあけたもので下地ボードの張替えが不要な程度のもの)

(理由)
重量物の掲示等の為のくぎ、ネジ穴は画びょう、ピン等と比べて深く範囲も広いため通常の使用による減耗を超えると判断されることが多いと考えられる。

4.通常のクリーニングで除去できる程度のタバコのヤニ

(理由)
喫煙自体は用法違反、善管注意義務違反に該当しないので通常のクリーニングで除去できる程度のヤニは通常減耗であると考えられる。

4.タバコのヤニ、臭い(喫煙によりクロス等が変色したり、臭いが付着している場合)※禁煙の賃貸物件では用法違反にあたる

(理由)
通常のクリーニングでは除去できない程度のヤニはもはや通常減耗とはいえない。

5.エアコン(借主所有)設置による壁のビス穴、跡

(理由)
エアコンについても、テレビ等と同様に生活の必需品になってきているので、その設置によって生じたビスの穴等もは通常の使用と考えるのが妥当と考えられる。

5.クーラーから水漏れし、賃借人が放置したため壁が腐食

(理由)
借主所有の場合は善管注意義務違反。
貸主所有の場合は通常の使用による減耗を超えると判断される考えられる。

6.クロスの変色
(日照等の自然現象によるもの)

(理由)
日照は通常の生活で避けられないものあるので。
6.賃借人が天井に直接つけた照明器具の跡

(理由)
あらかじめ設置された照明器具用コンセントを使用しなかった場合には、通常の使用による減耗を超える。

7.落書き等の故意による毀損

賃借人の原状回復義務負担一覧表
壁紙(クロス)、天井の耐用年数

賃借人が負担すべき修繕の単位 経過年数による負担
壁紙(クロス 原則㎡単位
色、模様合わせを行う場合は賃借人が毀損させた個所を含むの1面分までは張替え費用を賃借人の負担としてもやむをえない。
タバコ等のヤニや臭い
喫煙等により当該居室全体でクロス等がヤニで変色したり臭いが付着した場合は当該居室全体のクリーニングまたは張替え費用を賃借人負担としてもやむをえない。
6年間で残存価格1円になるように負担割合を計算する。
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